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旅のおもい絵
青い空に白い太陽。
そんな太陽に私はソファーの上で寝転がりながら手を伸ばす。
そして目をつぶる。
私が絵を描き始めたのは子どもの頃だったかな。
あの頃は母の日に手紙を書いていた。描けそうなアニメキャラクターを下にいつも色鉛筆で描いていたのを覚えている。
母親は絵を見て喜んでくれた。
いつの間にか母親にその手紙を送るのをやめた。
絵を描くのもやめてしまった。
しかし私は絵を描くことを趣味としていた。
それ以外に趣味は無いのだから。
入学式の日に小学校の先生がこう言った。
「では、自己紹介しましょう。名前と……そうだな、特技や趣味を話しましょうか?他に話したいことがあるなら何でもいいわよ」
ほかの生徒たちが順々に話していく。
サッカーや読書など話している。
私の番が来た。
「吉川心海(よしかわここみ)です。趣味は絵を描くことです」
私は思ったことを口にして椅子に座った。
その時、後ろから声が聞こえる。
「絵を描くことだってー。そんなの誰でも出来るじゃん」
「だよねー」
後ろの女の子たちが笑う。先生はそれを止める。
誰でも出来る趣味?サッカーとかなら分かるけど、あなたたちの言う読書や歌うことなどって
同じじゃないの?
私の頭の中でそれらの疑問が巡っていた。
絵を描く機会があっても周りに侮辱された。
「色が良くてもこんな絵じゃねぇ……」などと言われることもしばしばあった。
時が流れて中学生になった。
小学生の頃と同様な雰囲気になり、自己紹介で趣味を話すことになった。
また言われるならこう言うしかない。
「私の趣味は……ないです」
そのまま座ってしまった。趣味を話したいのに話せない自分が憎かった。机の下で両手の拳を作った。
あれは美術の時間の時だ。絵を描くことになった。それも自画像だった。私の手が勝手に動いた。輪郭や線の濃さ、影など何も考えずに描いていく。
「す……すごい」と周りにいた女の子の声で目が覚めた。
その紙に鏡に映し出された私がそのままの姿で描かれていた。
「趣味だったので……」と私は思わず、口に出してしまった。
その一枚の絵はクラスの中で一番素晴らしかったと先生に褒められた。
そう、これが私へのいじめのきっかけだった。
翌日から物を無くされるいじめが起きた。それだけではない。仲間外れは当然のこと、椅子の下に画鋲を巻くなどだ。
しかしあの時、私を褒めてくれた彼女だけは私の味方だった。
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