家の事情

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夏休みがもうすぐ終わる。 いつもだったら、そんなことに何の焦りも感じなかった。 水泳部の仲間は、手をつけていない宿題の数を競い合っている。 それを横目に俺は黙々と着替えていた。 頭の中ではグルグルと思考が廻る。 始業式まであと何日だ? どうする? 本当にやるのか? 「遠藤。おまえは宿題なんてとっくに片付けてるよな?」 1人の声にみんなが一斉に俺を見た。 「大体、終わってる。あとは……作文だけ」 「マジかよ! 嘘だろ⁉ 信じらんねー!」 そんな叫び声が口々から漏れて、俺は肩を竦めた。 おまえらの方が信じらんねえよ。 30日間も、一体何してたんだ? 終業式の前から計画を立てて、8月の半ばには宿題を終わらせる。 それが小学生の頃からの夏休みの過ごし方だ。 今年、手こずっているのは作文のテーマが悪いから。 『家族』。 誰だ? こんなテーマを考えた奴は。 校門を出ると、目の前に広がるのは一面の田んぼと畑だ。 実にのどかな田園風景。 遠くに見えるのは白いアーチの柳城橋(りゅうじょうきょう)。 その橋へと続く道路を家に向かって1人で歩いていく。 うるさい蝉の大合唱が余計に暑苦しさを感じさせる。 額から落ちた汗が足先のアスファルトの上でジュッと蒸発した。 肩からぶら下げた水筒を口に当てて、スポーツドリンクを流し込む。 畑の中にひょろひょろと伸びるヒマワリ。 頭でっかちの大きな花が重そうに俯いていて、俺みたいだなと思った。
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