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「雄大、明日決行する」
明日も母は朝から仕事だ。帰りは夜になるだろう。
そして、姉もオープンキャンパスに行くため、帰りが遅くなる。
こんなチャンスはもう二度とないだろう。
だから俺は決めた。父を捜しに行くと。
「明日中に帰ってこられるのかな? おじさんがそんなに簡単に見つかるとは思えないよ」
雄大が自分のベッドの上から情けない顔を見せた。
「見つからなかったら見つかるまで捜す。男なんだから公園で野宿したっていい。始業式には戻るようにするけど」
”男なんだから”とは言ったものの本当は怖い。
「おじさんに会って、何て言うんだよ?」
「姉ちゃんを取るなって言う。今までほったらかしにしておいて、今更連れて行こうなんて虫が良すぎるぞって」
姉が年頃になってかわいくなったから手元に置いておきたくなったんだろうけど、冗談じゃない。
姉は情に脆いお人好しだから、父に言いくるめられたんだろう。
ずっと忘れたことはなかった、とか。
今でも愛してる、とか。
離れて暮らすのは寂しい、とか。
そんな言葉に騙されて、父の世話を焼いてやろうなんて気になったに違いない。
「わかった。用意して待ってるから、行く時うちに寄ってよ」
何かを決意したような雄大の顔に首を傾げた。
「用意って何だよ? 餞別くれるなら、今もらっとく」
俺の差し出した右手を雄大はピシャリと叩いた。
「何言ってる。俺も行くんだよ、東京に」
「は? なんで?」
「涼介1人に任せておけない。美弥姉の一大事なんだから」
腰抜けで泣き虫で甘えん坊な雄大が、自分に言い聞かせるようにうんうん頷いている。
ああ、やっぱりな。
こいつも姉ちゃんに惚れてるんだ。
雄大は一言で言えば女みたいな顔をしている。
色は白いし、目はクリクリしてるし、鼻も口も小さい。
かわいい系のイケメンだから、女子に結構モテる。
先週、女子生徒と2人で体育館裏にいる雄大を見かけた。
どう見ても、告白シーン。
聞く気はなかったけど、聞こえてしまった。
「ずっと好きな人がいるから、君とは付き合えない。ごめんね」
「好きな人って誰? 2年? それとも先輩?」
申し訳なさそうな雄大の声に強い声が被さった。
「うちの学校の子じゃない。高校生」
あ、姉ちゃんのことだ、と思った。
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