東森正史

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 この日本と呼ばれる国に黒船が来航して久しい現在、俗世から切り離された僕の住み家、もとい「昏き森」にも従来の日本には存在しない代物が数多く手に入ることとなった。俗世の人間によって捨てられた道具は、自然とこの「昏き森」に吸い寄せられる。便利な物がタダ同然で手に入る反面、ものによっては使い方が分からないというのが難点か。  人を拒む仄暗き森、それが僕の住む「昏き森」だ。だが、最近はおかしな恰好をした数人組の人間が我が物顔で徘徊している。恐らく肝試しの真似事でもしているのだろう。  肝は人間の中心に位置する最も重要な器官である。人は夏に肝試しを行うことで己の強さを示し、自らの子孫が繁栄する可能性を高めているのだ。だが、この肝試しは必ず夏に行わなくてはならない。  単純な話だ。夏は暑い。そして肝試しを行うことで、人間は肝を冷やすことが出来る。肝を適切な温度に保つことで、人間の生命活動に悪影響を与えないようにしているのだ。  だから、ようやく春を迎えようとしているこの季節に肝試しの真似事を行う愚かな人間には制裁を加えなければならない。人間がどうなっても僕には関係の無いことだが、同じく「昏き森」に住む妖精や妖怪の類が愚痴をこぼしに来られては、僕の安息の時間が破られることになってしまうのだ。 「おお、ここが仙人がいるって噂の小屋だぜ」  来たか。僕のことを仙人だなんて、随分な噂話を作ってくれたものだ。僕を気味悪がってこの森に追いやったのは人間の方だというのに。まぁ、いい。幸いこちらには先程人間のことで愚痴を言いにきた妖精が居座っている。彼女に頼んで適当に追い払ってもらうことにしよう。  僕はその妖精に目をやった。見た目は小さな猿だが、れっきとした妖精だ。妖精は小屋の窓をすり抜けて屋根の方に登って行った。少し間が空いてから響いた人間の悲鳴を、僕はかの妖精が好きな木の実を用意しながら聞いていた。
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