東森正史

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 翌日、僕は酷くうるさい雨音に起こされた。窓から外を覗いても何一つ見えない。 「酷い雨だ。まだ梅雨の季節には早いだろうに」  僕はそう呟きながら、小屋の奥に作った物置部屋で身支度を済ませ小屋に戻る。小屋に一つだけ存在する机、その上に置いてある照明器具、ライトスタンドと言うらしいそれを光源とし、僕は読書を開始する。  だが、あまりに雨音がうるさい。晴耕雨読という言葉があるが、雨は外の雑音を消してくれるどころか、勢い余って雑音を与えてくる。 「邪魔するよ」  一際雨音が強くなったと同時に少女の声。どうやら雑音は雑音を呼ぶらしい。まぁ、集中して読書が出来ない今となっては、その雑音も話し相手となるから些か幸いではあった。 「邪魔するなら帰ってくれと本来なら言うところだが。どうしたんだ、こんな土砂降りの中、家に来るなんて」 「愛娘が帰ってきたのに随分薄情ね。まぁ、それが聖人らしくていいけれど。これだけ雨が降ってたら客も来ないし、暇じゃない。あ、聖人。奥で着替えてくるから、――何だっけ、ストーブ? いつものやつお願いね」  少女は一方的にそう言い残して奥へと消えて行った。僕は溜息を吐いて小屋の端に置いてあるストーブに火を点ける。  かの少女はこのストーブと言う魔道具に魅せられてしまっている。火種を必要とするのは炉や火鉢と同じであるが、燃料と呼ばれるものをエネルギー源に火が絶えぬよう自動で管理してくれるという、大変利便性に優れた代物なのだから致し方無いのだが。 「あー、暖かい……」  知らない内に少女は僕の横で暖を取っていた。彼女のお気に入りでもある全身黒の魔装束、いわゆる魔女の服を着ている。僕の家に置いている、彼女のスペアの服だ。  彼女は名を天(あめ)と言う。名付け親は僕だ。彼女は魔女であり、「昏き森」に住む唯一の人間なのだ。
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