東森正史

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 ……否。一概にそうとは言えないな。少なくとも僕は、いや、人間を嫌って俗世を離れた僕でさえ、彼女の努力に感化されてしまったのだ。そういう意味では、彼女は人ないし妖怪を情で動かすような才能があるのかも知れない。  ともかく、僕は彼女の修行の手伝いをすることにした。俗に言う魔道具の作成で、彼女の望むものを出来る限り再現して作ってやった。彼女の竹箒は空を飛べる。飛びやすいよう、高度や速度調節まで思いのままになるようしてある。  それから、彼女の乏しい魔力を増幅させる魔道書や、彼女を様々な危険から護る魔道服等、彼女が身に着けているものの殆どは僕が作ってやったものだ。このように彼女の望むものならば何でも与えてしまった故に、随分と身勝手な人間になってしまったようだが。  だが、忘れること勿れ。例え男手一つで育て上げた愛娘であろうと、彼女は所詮人間で、僕は人間嫌いの半妖、半人だ。天が自立した今となっては、彼女に会うことさえもなるべく避けたいと考えている。 「……天」 「はいはい、分かってる。雨が止んだら帰れ、でしょ? 言わなくても帰るって。それに今日は大事な用があるからさ。聖人も、雨が止んだら花見に行こうよ?」 「行かない。雨が止んだところで花見は出来ないだろう? それに、雨が止んだら僕は一人月見をするんだ」 「月見だって? 今は秋じゃなく春でしょう? こんな湿っぽいとこに籠ってたから、ついに季節感も失くしちゃったのか?」  失礼な奴だ。僕の家は湿っぽくないし、季節感を失くした訳でもない。ましてや、月見が秋のものだなんて以ての外だ。彼女はやはり、中身はまだまだ子供のようだ。春こそ月見の季節であり、個人的な意見だが、特に雨上がりの夜は最高だというのに。
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