東森正史

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 僕は杯に浮かぶ月を、酒と共に飲み干した。これで今年も僕自身の力は安泰だろう。残りの酒は、勿体ない気もするが辺りを彷徨っている妖怪にでも振る舞ってやれば良い。 「聖人! やっぱ一人酒なんて楽しくないでしょ!」  突然天が窓から顔を出した。いや、それよりも僕が驚いたのは、彼女の背後に確認できる天狗や鬼の姿。一体、どうやって人間の彼女が彼らとコンタクトを取れたのだろうか…… 「あら、とても美味しそうなお酒ですね」 「なんだよ。良い酒を一人占めするつもりだったな? させるか、俺らにもおごってもらうぜ」  ……天に口を滑らせたのが不味かったか。どうやらツキノミの儀式は、僕には大した恩恵が無いらしい。天狗や鬼に振る舞うという意味では、これでツキノミの儀式の形となったわけだが。 「分かったよ。だが天。お前は飲むなよ? 酒は二十歳以上じゃないと、飲んではならないんだ」 「それは俗世のルールでしょ? ここは俗世の常識が通用しない昏き森ってね。さぁ、花見花見!」  どこでそのような屁理屈を覚えたんだ。……まぁ、騒がしく飲むのもたまには良いか。天狗と鬼がいる以上、月の魔力に酔い潰されるのは目に見えているけれど。  卯の月、初日。今日の「昏き森」は雨から晴れ。夜は花見などをして騒がしい一日を終えた。そういえば、天から新しい魔法を開発したとかいう話を聞いた。気乗りはしないが、明日は彼女の魔法店を訪ねてやるとしよう。  東森正史、書き手は、昏き森の聖人。 Fin.
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