最終話

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 キッチン棚に調理道具や調味料や香辛料が、  これでもかというほどに揃っている件は、  そういう事だった。  栄養満点の美味しい料理と、  たっぷりの睡眠が与えられたおかげで、  4日間で私の体重は5キロ増えた。  黒髪に艶が戻り、  乾燥していた唇や肌も元通り、  目の下の大熊もいなくなった。  手指はまだほんの少し荒れているけどほぼ完治。  つわりも不正出血も起きていない。  まっ平だった自分の腹部は、  今ははっきりと膨らみが見える。  自分のその腹部を見た後、  左手で器用に食べている、  向かいの席の相手に言う。 「私、太ったよね」 「妊娠初期の今は大事な時期だから、もっと体重を増やすべきだと、昨日産婦人科の担当医が言ってただろう」  そんな言葉と共に、  大皿の上にあったカリカリに焼かれたベーコンが、  食べろと言わんばかりに、  私の皿の上に山に盛られた。  昨日は尚人付き添いで産婦人科を受診した。  今まで通院していた産婦人科から、  このマンションの近くにある産婦人科に、  転院変更の手続きと定期検査を兼ねて。  マンションから徒歩10分の距離。  一人で行けると断ったのに、  私の体調を心配し過ぎてる尚人は譲らず、  仕方なく一緒に行ったのだが。   「もう尚人と一緒に産婦人科に行かない」 「どうしてだ?」 「だって・・・」  今まで通っていた産婦人科と違い、  今後通う産婦人科は施設は大きく設備も万全、  患者数もとても多い。  若くて綺麗な妊婦がたくさん来ていた。  このカレは万人が認める超イイ男。  女性患者だらけのその中に、  ケタ違いのこんな秀麗がいたら、  誰でも注目するし、  妊婦なのに熱い視線を送る人もいる。  自分の旦那が隣にいるのに声をかける強者さえいた。  当のこのカレはというと、  そんな外野達を完全無視して、  病院に置かれていた育児書を一心に読みまくっていた。  若くて綺麗な他の妊婦さんに取られそうで心配、  なんて口が裂けても言えないから、  ゴニョゴニョと単語にならない言葉で返答すると、 「日本語で話してくれ」  真顔でそう言われた。
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