最終話

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 愛する人が隣にいる生活。  どんなに望んでも願っても叶わなかった、  その生活がいま目の前にある。  突然訪れた自分の幸せにまだ現実感がない。  ふと自分の左手の薬指を見ると、  真新しい指輪が嵌められている。  同じものが尚人の薬指にも嵌められている。  昨日病院の帰りに尚人が買ってくれた、  ペアのプラチナの結婚指輪。 「・・・私、尚人は詩織さんと結婚すると思ってた」  ずっと心に引っ掛かっていたその事を、  ポツリと言ってみた。  尚人の動きが止まる。  こちらをじっと見た後、  怪訝そうな声音で言う。 「お前にいらない情報を与えているのは、どこの誰なんだ?」  寄越されたそんな質問に、  肩をすくめて返事を返す。  すると、 「そんな話があったのは事実だ」  少しの間の後でそう言われた。  縁談話は本当だったと初めて知る。  続きが聞きたくて、  相手の顔をじっと見つめると、  それに気付いた尚人が仕方なく話し出す。 「どこまで聞いているんだ?」 「尚人が大学時代に詩織さんと交際してて、詩織さんはユニシスの社長の娘さんで、大阪本社に籍を置いてる営業成績1位の社員で、3ヶ月前の会社の大型取引の時に本社から応援で来てくれた人で、佐久間部長の手腕と詩織さんの営業トークで大型取引は見事契約成立した、って事しか知らないです」 「全部知ってるじゃないか。お前にいらない情報を与えているのは、どこの誰なんだ?」  若干不機嫌そうに言うカレに、  会社中で噂になってましたよ、  なんて言えないから、  やっぱり肩をすくめて返事を返す。
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