最終話

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 カップスープを一口飲んでから、  尚人が口を開く。 「話があったのは3ヶ月前のその取引で契約成立した後だ。社長から突然、詩織との縁談話を切り出された時は、なんの冗談かと思ったし驚きもした。詩織とは大学時代に交際していた。昔に終わった恋愛だぞ、とっくに熱も冷めているだろう。今更そんな話を出されても、応じられるはずもないから即断った」 「詩織さんはなんて・・・?」 「詩織にも後日、社長と同じ言葉を言われた。彼女の口からそんな事を言われるとは想像もしてなかったから、正直驚いた。だがその頃は俺はお前と交際していたし、その場でハッキリ断った」  濁りない澄んだ綺麗な琥珀色の目が、  真っ直ぐに私を見ながら、  静かにそう話す。  初めて聞くその事実に、  心はとても複雑。  いつかタタリさんが話していた通り、  詩織さんは尚人に未練があった・・・。  皿の上のベーコンをフォークでいじりながら、  不要な言葉を言ってみる。 「・・・尚人ってシュミ悪いね。私が尚人だったら、迷わず詩織さんを選ぶ」 「どうしてだ?」 「・・・だって、社長の娘さんだし」 「それがどうした」 「・・・美人だし」 「お前のほうが綺麗だろう」  そのセリフにすぐに反応。  ホメ言葉に飢えてる私は、  顔を上げておねだりする。 「今の言葉もう一度言って」 「お前のほうが綺麗だ、お前のほうが綺麗だ、お前のほうが綺麗だ、お前の・・・」 「もういい」  感情の入らない棒読みで繰り返される言葉に、  キブン急降下。  このカレは変なところで遊び癖があるらしい。  トーストを一口かじり、  上目遣いで無言で抗議すると、  含み笑いをした相手がテーブル越しに体を寄せて、  顔を近づけそのまま唇にチュ、とキスをした。 「食事中のキスはご遠慮ください」   「そうだな。マーガリンの味がする」  綺麗な微笑を浮かべてそう返すカレは、  いつだって一枚上手。  そんなじゃれ合いも、悪くはない。
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