1 顔を見たら

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「……モーリス出版社」 遼が奥付を読んだ。 「知らねえぞ、そんな出版社。つか、法律の仕事やってて、なんで、こんな本……」 「ちゃんとした依頼だよ。著作権関係の」 「なら、なおさら……。まさか、お前、俺たちのこと、ぺらぺらしゃべったんじゃあ、」 「知りたかったんだよ!」 豪太は叫んだ。 「あなたはいろいろ知ってるけど……その、男同士のこと……。知ってて経験あるけど、……僕はまるで知らない。そんなの、ずるい」 「ずるいって、お前、」 「そしたらその社長さんが、ちょうどいい教科書がある、って」  遼が不審そうな顔をした。 「教科書? つか、これ、小説だろ?」 「|小説(フィクション)のが、わかりやすいって」 「俺に聞けよ」 ため息をついた。 「いくらでも教えてやるから。そんな、本なんて。しかも、|小説(えそらごと)……」 「それじゃ、ダメなんだよ」 豪太が口を尖らせた。 「僕は、遼さんをもっともっと気持ちよくさせてあげたい。今までの誰にも負けないほど、上手にしてあげたいんだよっ!」 「お前が、たとえ下手っぴだって、だな。そんな理由で、俺は、浮気はしない」 「……僕、やっぱり下手?」 「だから、たとえだよっ、たとえ!」 「そりゃ、僕は元からそういう人じゃないけど……誰より遼さんのこと、大事に思ってる。だから、僕を選んでくれたこと、後悔させたくないんだ。特にベッドでは!」 「……ばか。今でも十分……」 「なに?」 「いや」 遼は、豪太から目をそらせた。本の背表紙を指で叩く。 「随分厚い本だな。全部読んだのか?」 「まだ、途中までだけど。その栞んとこまで。しょっぱなから、なんか、もの凄い話だったんで」
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