98人が本棚に入れています
本棚に追加
「……モーリス出版社」
遼が奥付を読んだ。
「知らねえぞ、そんな出版社。つか、法律の仕事やってて、なんで、こんな本……」
「ちゃんとした依頼だよ。著作権関係の」
「なら、なおさら……。まさか、お前、俺たちのこと、ぺらぺらしゃべったんじゃあ、」
「知りたかったんだよ!」
豪太は叫んだ。
「あなたはいろいろ知ってるけど……その、男同士のこと……。知ってて経験あるけど、……僕はまるで知らない。そんなの、ずるい」
「ずるいって、お前、」
「そしたらその社長さんが、ちょうどいい教科書がある、って」
遼が不審そうな顔をした。
「教科書? つか、これ、小説だろ?」
「|小説(フィクション)のが、わかりやすいって」
「俺に聞けよ」
ため息をついた。
「いくらでも教えてやるから。そんな、本なんて。しかも、|小説(えそらごと)……」
「それじゃ、ダメなんだよ」
豪太が口を尖らせた。
「僕は、遼さんをもっともっと気持ちよくさせてあげたい。今までの誰にも負けないほど、上手にしてあげたいんだよっ!」
「お前が、たとえ下手っぴだって、だな。そんな理由で、俺は、浮気はしない」
「……僕、やっぱり下手?」
「だから、たとえだよっ、たとえ!」
「そりゃ、僕は元からそういう人じゃないけど……誰より遼さんのこと、大事に思ってる。だから、僕を選んでくれたこと、後悔させたくないんだ。特にベッドでは!」
「……ばか。今でも十分……」
「なに?」
「いや」
遼は、豪太から目をそらせた。本の背表紙を指で叩く。
「随分厚い本だな。全部読んだのか?」
「まだ、途中までだけど。その栞んとこまで。しょっぱなから、なんか、もの凄い話だったんで」
最初のコメントを投稿しよう!