1 顔を見たら

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 栞を外してしまわないように気をつけながら、遼が、本をぺらぺらめくる。  その顔が、次第に赤くなっていった。 「お前、これ、随分アレだぞ」 「アレって?」 「なんというか、誇大妄想というか、希望的観測?」 「え?」 「サイズひとつとっても……」 遼の手元を、豪太はのぞき込んだ。 「……」 「……」  「モーリス出版社」 再び本を裏返し、遼がつぶやいた。 「その会社、ずいぶんなブラックかもしれないな。気をつけろよ」 「だ、大丈夫だよ。ボス弁もついてるし」  「豪太」  遼が、初めて豪太のことを、名前で呼んだ。  そのことに気がつき、はっとして、豪太は遼を見た。  遼は、本を脇に置き、手を伸ばした。  豪太の頭を胸に抱き寄せ、耳元で囁く。 「俺、この頃気がついたんだ。好きなやつとやるから、気持ちがいいんだ、って」 胸の中で豪太が何かもごもご言っている。 「何?」  豪太が、紅潮した顔を上げた。  目が、きらきら光っている。  必死な声で、訴えた。 「モーリス出版の社長さんにけしかけられたからじゃない。僕は、毎晩、したい。あなたと毎晩、したいんだ。昼間でも構わない。顔を見たら、いつだって、したい」 「お前な、」 「一緒に暮らそう、遼さん」 「この流れでそれを言うか」 「好き好き好き。大好き、遼さん」 「……」 両頬を挟んで、遼はその唇にキスをした。 fin
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