1 顔を見たら

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 「仕事、終わった。今から帰宅」 柳ヶ瀬遼は、会社を出て、送信する。  23時を回っている。  前は、もっと遅くまで残業していた。  でも今は、無理はしない。  そして、たとえ帰る家が別でも、ちゃんと連絡を入れる。  ……あいつが、心配するから。  返信は早かった。  ディスプレイを見ると、 「前見て」 とある。  目の前は、カフェだった。  ガラス張りの店内で、明るい照明を浴びて立っているスーツ姿の男がいた。  嬉しそうに、殆ど飛び跳ねんばかりにして、頭の上で、大きく両手を振っている。  必死で目をそらせている他の客など、まるで眼中にない。  まっすぐに遼を見て笑っている。今にもガラスを突き破ってこちらに走ってきそうだ。  ……俺の、愛しい男。  だがこれは、いささかやりすぎではないか?
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