2 瑕疵物件

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「……遼さん」 珍しく、豪太の声が震えている。 「その女性ね。……死んでる」 「はあ?」 「この部屋で、自殺したんだ」 「何を、笑えない冗談を、」 「冗談じゃない、ほんとだよ」 「だってゆうべ、ここへ来たんだぜ? 元カレの愚痴や悪口を聞きながら、一緒に酒を飲んだんだ」 「なあ、遼さん。都心のマンションを、それも上下で2部屋も借りられるなんてすごい、って、前に遼さん、褒めてくれたろ?」 「いや、褒めたわけでは……」 「僕は勤めていた事務所を辞めたばかりで、迷子の猫探しとかして、生計を立ててたのに」 「ああ。ほんと、経済観念のないやつだと思ったよ」 「それはっ、どうしても、あなたのそばにいたくてっ! あなたの会社の近くで部屋を探したのっ! ……そんなことより、ここ、ほとんど無料で借りてるんだよ」 「無料? まさかお前、悪いこと、してるんじゃないだろうな。大家のどーゆー弱みをつかんだんだ?」 「違うよっ! あのね、遼さん。事故物件って知ってる?」 「ああ、自殺とか殺人とか、あった部屋のことだろ?」 「うん。心理的瑕疵といって、通常は、借主に対して、告知しなければならない。でも、そこに一度、誰か別の人間が住めば、告知義務はなくなるんだ。つまりね。僕は、頼まれて、この部屋に住んでいるのさ」 「誰から?」 「不動産屋から」 「……」 「この部屋で、人が死んだんだ。その写真の女の子が」 「!」 「この部屋の前の借主の彼女でね。自殺だった。別れ話が出ていたらしい。当時彼女は、妊娠3ヶ月だった。恐らく、正常な判断ができなくなっていたんだな……」 「うそだ……。だって、……」 「嘘なものか。僕は、上下で部屋を借りてるよね。上階が、問題の男の部屋だった。そいつが長期出張で留守した時に、彼女が合鍵で入って、自殺した。夏場、長いこと発見されなかったものだから、下の部屋までエグイことになって。おかげで僕はタダで、2部屋、借してもらえたわけ。不動産屋が次の借主に、いろいろ説明しなくて済むように」 「……」 「……」 「お前、そんなところに住んでたのか」 「そう。でもさ。そろそろ引っ越そうかなー、と思って」 「是非、そうしろ」 「それで……ね、遼さん。前にも言ったけど、」
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