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「誰もいないじゃないか!」
殆ど悲鳴のように、豪太は叫んだ。
「ここには誰もいないよ。僕とあなたの他に!」
「お前、それは失礼だろ……」
女性の笑いが消えた。
むっとしたように、豪太を睨んでいる。
「ほら、彼女、怒ってる」
「遼さん! 遼さん!」
豪太が遼の肩をつかんだ。
「ちょ、なんだ、人前で」
「だからここには、僕とあんたしかいないっ!」
「いるだろ……」
豪太がいきなり、遼の口を塞いだ。
「……っ、……っ」
性急に舌が割り込んでくる。
突き放そうとしても、後頭部を抱え込み、離そうとしない。
驚きや恥ずかしさや、面目なさやなにやらで、遼は、途方に暮れてしまった。
混乱した気持ちのまま、豪太の顔の下から、そっと女性の顔を盗み見る。
意外なことに、彼女は微笑んでいた。
微笑んで遼にうなずき掛けると、唇の動きだけで伝えた。
「か・え・る……」
「……っ!」
遼は、やっとのことで、豪太を引き離した。
「……ほらっ! お前が無体なことすっから、……彼女、居たたまれなくなってんぞ。もう、帰るってさ」
息を途切らせながら言った。
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