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「遼さんが幽霊を見た話をしたら、部屋の修復費はいいから、って」
嬉しそうに、豪太が笑った。
「でも結局、部屋は明け渡さなくちゃなんねえんだろ?」
豪太の前にコーヒーを置いてやりながら、遼が言う。
「どうすんだよ、お前」
「ここにおいて」
「いやだよ。狭いもの」
「狭いから、いいんじゃん。いつも身近に遼さんがいて、手を伸ばせばすぐそこに、」
「昼間っから、何すんだ!」
伸びてきた手を、遼は叩き落とした。
「ひどっ」
「真面目に考えろ。こっからだと、お前の職場には遠いじゃないか。乗り換えだって多いし、通勤が大変になるだろ?」
遼が真顔で諭すと、豪太は首を竦めた。
「実はね。遼さんと僕の職場の真ん中あたりに、考えてる物件が二件、あるんだよ。一軒はそれなりの家賃なんだけど、もう一軒は格安」
「格安? お前、それ、まさか、」
「うん」
「うん、って! 懲りない奴だな。ダメだ。それはダメ」
「僕だってヤだよ! だって遼さん、引き寄せ過ぎだもん。あのね。たとえ幽霊だって、僕は、遼さんに近づけたくないの! あなたは僕のもんなんだからっ!」
「じゃ、その部屋は、却下」
「そんなこと言ったって、家賃の高い方は、無理だよ。イソ弁の出戻りじゃ、給料も大したことないし。困ったなあ」
ちらりと遼の顔を見る。
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