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『えー。ごめん、僕が悪かったよ。だからお願い、ほんとに気持ち悪いんだって』
「ははは。冗談だよ、冗談。分かったわかった、買ってやるからさ、砥石くらい」
『……はあ、じゃあそれなりのを頼むよ?』
「あまり調子に乗るなっ」
街が見えてきた。
少年の足も、心なしか速まってきたようだ――
不毛の大地の一角に、活気あふれる人々と建築物がいくつも在る。
乾いた風が時折頬を撫でる。彼方此方に露店が並び、商業が発展してきていることを伺わせる。街の中央には大きな噴水があり、街に入る大通りからでもその大きさは目を引くものがあった。やはり、ここは重要な貿易の拠点となっているようだ。
こんな辺境の地の街がこれほどまでに生き生きとしている理由はそれ以外考えられない。
「うわぁ……砂漠の中にあったから小さな村みたいなのをイメージしてたけど、けっこう大きな町だな」
『うん、ここなら宿屋を探すのにも苦労しなさそうだね』
街の入り口である大きな門の下で少年はしばらく立ち尽くす。想像したものと大きく街の様子は違っていたのだろう。少し呆けた表情を浮かべた後、少年はそう言った。
街を行き交う人々の活況に満ちた声が鳴動する。少年は、ふと町の中心に近い場所に在る一つだけ頭が飛び出ている建物に目がいった。
「ん? なんだ、あれ。一つだけ大きいのがあるな」
『うん。教会……かな』
「んー、教会にしちゃ ちょっと悪趣味じゃねえか? どっかの成り上がりのやつの家かな」
『うーん、まあどうでもいいよ。ねえ、それより早く砥石をさあ』
「分かってる、わかってるって。とりあえず行ってみようぜ!」
また乾いた風が、今度は砂を含みながら頬を撫でる。少年は街の中へと歩を進める。
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