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「ああ、そうだ。ここら辺を統治してた貴族様もすっかり元気をなくしちまってねえ。兄ちゃんもここまで来るのは大変じゃなかっただろう?」
「ええ、まあ」
「そのお陰でこの街も貿易って形で元気を取り戻してきて、本当にあの国王様には感謝しても感謝しきれねえよ」
「そうだったんですか」
ゴクリと、また一口少年はその飲み物を飲み干す。風はまだ吹き止みそうにはない。
「ん? 兄ちゃん左利きなのかい? さっきから左手しか使ってないじゃねえか。珍しいねえ」
「あ、ええ、……昔は右利きだったんですがね」
「ほお、そいつは益々珍しい。これも何かの縁だ。もう一杯飲んでいきな! 奢ってやるからよ」
「ありがとうございます」
そうして少年はもう一杯、同じ飲み物を店主から貰う。街を行きかう人の流れは途切れることはない。
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは何処から来たの?」
ふと、少女の声がしたので少年は隣の席を見る。いつの間にか少年の隣に腰掛けていたその少女は、『ちょこん』という擬音語が一番適当な様子でそこにいた。
「ああ、そいつは俺の娘でプルアってんだ。どうだ、可愛いだろ? 将来はこの店の看板娘だな!!」
「へえ、そうなんですか」
「お兄ちゃん、何処から来たの?」
また復唱するように同じ事を少女は聞いてくる。少年は、これは答えなければならないかと思い質問に回答する。
「ん、俺はね、チェントラリタって所から来たんだ。知ってるかな?」
一度椅子から降りて少女と目線を合わせてから少年は告げる。その口調は幼い子供に話しかけるとき特有のもの。
「え! あのチェントラリタなの!? お兄ちゃんすごいね」
「ああ、別に俺はすごくないんだけどな」
「ねえねえ、あそこって雪が降るんでしょ!? 雪ってほんとに白くて冷たいの?」
キラキラと目を輝かせながら少女は聞いてくる。
――それはまるで星のよう。
自分にもこんな時期があっただろうか。と、そう考えながら期待を裏切らないように少年は答える。
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