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男は後ろに手を組みながら、少年の元へと歩み寄って見下すような声と視線でこう続けた。
「お前が、この私にぶつかったときに財布を盗んだのはわかっているのだ。さあ、大人しく返して貰おうか?」
「そんなもの、俺は盗んではいない! 言いがかりだっ!」
「まだそのようなことを言うのか~?」
男は少年の顔を一発、その醜い拳で殴る。それと同時に周りの人々から吃驚したような声が漏れる。
「くっ……。俺はそんなもの盗んでないっ!」
「ええい、黙るのだ!」
その後、何発も何発も少年は顔を、腹を、殴られる。誰がどう見ても理不尽な光景なのだが周りにいる人々は誰一人として少年に手を差し伸べようとはしない。
ただ、このような痛々しい光景を見ないようにと瞼を閉じるのみだ。
それでも、少年の目からは光が消えることはない。
「くっ……かはっ!」
「――お待ちください!」
と、人だかりの中から一人の女性が飛び出してきて、男の前に座り、頭を地面にこすり付ける。その格好は少年と同じく街の人々に比べればあまり良いものではなかった。
「どうか、どうか、その子を放してあげてください。罰ならば私が受けますから」
「……か、母さん……」
「その子は、私のために薬を買ってきてくれたところなのです。その子に罪はありません」
「ええい、『元奴隷』の分際で私に哀願を請うか! 図々しいんだよっ!」
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