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(……まだ……まだ、変わらないのか。いくら制度を変えても、いくら貴族をなくしても、いくら民主制になっても、まだなのか――)
彼が、そんなことを思っていると、男は少年の母親をその醜い足で足蹴にした。
「キャアー!」
「母さん! お、お前……!」
「ん? なんだ。まだ刃向かうつもりかい? もういい、この小僧を連れて行け!」
「はっ!」
男がそう言うと、兵士二人は少年を連れてどこかに行こうとする。その返事はとても冷たかった。
「畜生! 母さん! 母さん!!」
「キオロ!」
二人の叫び声は、この噴水の広場に木霊する。しかし誰も助けようとはしない。
皆自分の世間体のほうが大事らしい。彼は二人を助けるつもりは更々なかった。こんな利己的な人間しかいない町に希望など無い、そう判断したからだ。
半ば呆れ返った少年はそろそろあの少女を探しに行かなくてはならないと、この人ごみを抜けようとする。
「――待って!」
――え、と少年は反射的に振り返る。そんな筈は無い。
先程まで誰も助ける素振りなど見せなかった筈だ。だが、眼前にした光景は、それ以上に彼を驚かせた。
探していた少女が、小さな両手を広げ、進行方向を塞ぐようにそこに立っていた。
「ん? なんだ? お前は」
兵士の一人が少女に尋ねる。その声はとても冷たい。
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