11人が本棚に入れています
本棚に追加
また死にたいと強く願う。だから旅に出たの。
独りになりたいからオフシーズンを選んだ。
この世に未練はない。
私の旅路は死出の道。
旅の終着地は彼岸の彼方──。
それなのに馴れ馴れしく声をかけられた。
「火神(かがみ)さん、ちょっと待ってください」
気がめいる。
私が無言で抗議しても声はやまない。
「1人で行動しては危ないですよ」
怒りを募らせ足を止めると、
「ああ。やっと止まってくれましたね」
男は満面の笑顔で近づいてきた。
私的領域に易々と侵入してくる。
この一方通行な優しさがムカつくのよ。
「あれっ、怒っていますか?」
男がお人好しな笑みで訊いた。
「……案内、頼んでいませんが」
「いやいや、火神さんは大事なお客さまですから」
「独りにさせてくれませんか?」
「星がキレイで静かな夜ですからね」
答えにならないことを言うと、また男は後をつけてくる。
まったく頭にくる。
こんなところが、あいつに似ている。
あいつも歯車のズレたロマンチストだった。
「……何の用でしょうか?」
「お客さまの安全が第一ですから」
「また答えになっていない。あの……えーと……」
「水無瀬(みなせ)です。やっぱり名前覚えていませんでしたね」
「水無瀬さん、もうロッジに帰った方が良いですよ」
最初のコメントを投稿しよう!