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「あそこが天国かあの世かはわからない。でも彼のいた白い空間の空には、たしかに七色に輝くオーロラが見えたのよ」
「僕は5年前に転落事故で臨死体験をしました。僕が訪れた世界の空でも、たしかに綺麗なオーロラがたなびいていましたよ」
「では同じ場所なのかしら?」
「それはわかりません。だから僕は1人でロッジを経営しながら、再びあのオーロラを見たいと待ち望んでいるのですよ」
水無瀬が少し悲しそうな顔になる。
それはあの世界で見た風間の表情と似ていた。
「風間にもう一度会いたい、ただそれだけで来たの。オーロラの彼方に彼がいるのなら、私はもう一度死ぬことも怖くない」
そう言ったとき──空気がわずかに重くなった。
周りの草や樹が帯電したかのごとく低くうなっている。
私たちは身動ぎもせずにいると、突然に頭上で光が瞬いた。
慌てて見上げると、満天の星空にオーロラが広がっていた。
七色に輝く光帯が流れ逆巻き、360°の全天を自在に駆け回る。
それは星空が破れて、光の滝が落ちてきたかのようである。
この世のものならざる幻想的で美しき光景だった。
「なんて綺麗なの……」
「これはブレイクアップ、オーロラ爆発ですよ!」
私は放心していると、水無瀬が興奮したように叫んだ。
これこそ光の乱舞──まさしくオーロラダンスだ。
「これこそ風間のいた世界で見たオーロラよ」
「この時期だと弱く白いオーロラしか見られないのに、こんな凄いオーロラ爆発は珍しいことです」
そのときである。かすかに耳の鼓膜を揺らす音が届いた。
サラサラと水が流れるような、
パキパキと小枝が鳴るような、
シュシュと風が逆巻くような、
心がはずむような不思議な音だった。
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