オーロラダンスに伝言を

5/7
前へ
/7ページ
次へ
「あそこが天国かあの世かはわからない。でも彼のいた白い空間の空には、たしかに七色に輝くオーロラが見えたのよ」 「僕は5年前に転落事故で臨死体験をしました。僕が訪れた世界の空でも、たしかに綺麗なオーロラがたなびいていましたよ」 「では同じ場所なのかしら?」 「それはわかりません。だから僕は1人でロッジを経営しながら、再びあのオーロラを見たいと待ち望んでいるのですよ」  水無瀬が少し悲しそうな顔になる。  それはあの世界で見た風間の表情と似ていた。 「風間にもう一度会いたい、ただそれだけで来たの。オーロラの彼方に彼がいるのなら、私はもう一度死ぬことも怖くない」  そう言ったとき──空気がわずかに重くなった。  周りの草や樹が帯電したかのごとく低くうなっている。  私たちは身動ぎもせずにいると、突然に頭上で光が瞬いた。  慌てて見上げると、満天の星空にオーロラが広がっていた。  七色に輝く光帯が流れ逆巻き、360°の全天を自在に駆け回る。  それは星空が破れて、光の滝が落ちてきたかのようである。  この世のものならざる幻想的で美しき光景だった。 「なんて綺麗なの……」 「これはブレイクアップ、オーロラ爆発ですよ!」  私は放心していると、水無瀬が興奮したように叫んだ。  これこそ光の乱舞──まさしくオーロラダンスだ。 「これこそ風間のいた世界で見たオーロラよ」 「この時期だと弱く白いオーロラしか見られないのに、こんな凄いオーロラ爆発は珍しいことです」  そのときである。かすかに耳の鼓膜を揺らす音が届いた。  サラサラと水が流れるような、  パキパキと小枝が鳴るような、  シュシュと風が逆巻くような、  心がはずむような不思議な音だった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加