泡と淡水魚

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 海の家で三日も経った。  真夏の日差しが今日も鋭く肌を焼く。  私は妹の由比(ゆい)にアルバイトに誘われていた。 「海の家は狭いけどお客は割と来るんだよ」  一歳年下の由比は高校二年生。  私は高校生活最後の思い出は海や山の見えるところがよかった。即座に首を縦に振ると、どうしてかは自分でも解らないけど、ドキドキしていた。  私立春日(かすが)大付属高校での生活は、いつも授業も部活も単調で退屈だったからだろうか?  それとも、彼氏が交通事故で亡くなってしまったからだろうか?  それとも……。  学校から30キロ離れた沖縄の海の浜辺では、大学生の男性たちがサーフィンをしていた。  ここには年がら年中風通しのよいボロボロの木枠が外へと通じる。冬は誰も来ないから真夏には打ってつけなのだろう。 「お姉ちゃん。お客の相手は私がやる……」  妹は要領がとてもよく。  気が強い性格だった。 「わかったってば」  私はポニーテールを揺らし、若い男性たちの間をすり抜けるようにビールを渡す妹の後を追った。 「お、綺麗だね。見たところ高校生か大学生だね。水泳でもやってたの?」  小麦色の肌の若い男性はサングラスを少しずらして、私を見つめる。  白い歯が見えるほど、微笑んでいるが、上半身裸の水着姿にサンダルを引っかけているので、ナンパをしに海に来たような人だ。  隣の男性は一際大きく妹とおしゃべりをしていた。 「ええ、そうです。水泳部のトップだったの」  私は自分がナンパされていても、あまり気にせずに話に乗った。  彼氏を失ってからは、どうしてか男性に警戒心がまったくなくなってしまった。 「ビール。一緒に飲む?」 「仕事が終わったら……。夕方には終わるわ」  夕焼けの浜辺を一緒に歩いた。  毛利さんという名で大学二年生だ。 「そうか。高校生活最後の思い出作りか……」 「ええ……。でも、妹と一緒に仕事をしたかっただけでもあるの。海か山で……」  私は白のワンピースを着て、仕事を終えたのにエプロンをしていた。  彼は相変わらずビールのジョッキを傾け、白い泡のついた口の周りを気にせずに話していた。  ビールが好きなのだろう。  そんな彼は大人びて、それでいて子供のような屈託のない笑顔をする人だった。 「ははっ、俺もそうしたかったな……。高校生活はつまんなかったからな」
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