泡と淡水魚

4/6
前へ
/6ページ
次へ
スカイブルーの水面下に白い砂の大地が広がっている。 サンゴ礁は綺麗に皆、咲いていた。 おいで、おいで、と波打って。 カラフルな魚が私たちの周りを泳いでいた。 私と毛利さんは深い海の中を苦もなく泳いでいた。 ここには自由がある。 山にも、川か、滝や湖があって自由があったかも知れない。 けれども、由比は私を海に帰したかったのだろう。 私は今、どうしも自由になりたかった。 あの世にも自由がない気がする。 私は自然に帰りたかった。 願い? そうなのかは私にはわからない。 いつの間にか神様が叶えてくれたのだろうか。 ただ、私は家で飼っていた淡水魚の姿になっていたようだ。 小魚が私と毛利さんの間を駆け巡った。 大きなタコがこちらを見ていた。 「なあ、いっそ中国まで行かないか。それから、世界各地を泳いで日本に帰ろうぜ」 毛利さんは魚たちと楽しそうに泳いだ。 毛利さんも自由になりたかったのだろう。 「私はいつまでも、沖縄で泳いでいたい。でも、妹が心配なだけかも知れない」 「それじゃ、自由じゃない」 毛利さんは少しだけ苦く笑った。 「俺は両親に愛想尽かされたからな。もともと自由なのさ」 「毛利さんは、海の中ではビールが飲めない。だから、自由じゃない」 毛利さんは子供のように笑った。 「俺は実は死んだんだ。高級車を友達と乗り回している時に。ガードレールを突き破って。そしたら、血だらけの友達が、俺を見て淡水魚だ。って言ったんだ。不思議だった」 サンゴ礁の周りをグルグルと泳いだり、海面上の通り過ぎる船をいつまでも見つめていたり。 船が通ると、真っ二つの気泡と波が私たちを歓迎してくれた。 人間に戻る? 本当にそんなことができるのかは、私にはわからない。ただ、由比の言葉が時々、頭に響いた。 でも、私はもう帰りたくない。 この沖縄の海を永遠に泳いで、自由を得るの。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加