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そんなある日。
私は遠洋漁業の人たちに捕まってしまった。
船に引き揚げられ、毛利さんともはぐれてしまった。
網から抜け出そうと、血だらけになって、必死に抗ったけれど、一向に網からは抜け出せなかった。
私を引き揚げた人たちは驚いていた。
「なんだ?人間が引っかかってしまった」
一番年長の人がポツリと言葉を落とした。
やっとのことで、私を網から引っ張り出し。
「すまん。この海域で泳いでいたのかい?
サメやウミヘビやとにかく危険だから。あんたは運がいい。どこかの船から落ちたのかい?」
親切なその人は、私の涙を気にせずに、何故泣いているのかも聞かずに、私を日本まで送ってくれるそうだ。
「さあ、日本に帰ろう。元気出して」
年長の人は私を慰めた。
「もう終わったんだよ」
年長の人は意味深な顔になった。
「たまにこの海域で人間が引っかかってしまう時があるんだそうだ。俺のひいおじいさんが言っていた」
涙が溢れ、そして、流れた。胸が痛いほど苦しくなっていた。
毛利さんとは、もう会えない。
淡水魚の姿にも戻れない。
もう、自由じゃない。
毛利さんは、中国へ行ったのだろうか?
それとも、世界各地を泳ぐのだろうか?
今でも、淡水魚の姿をした毛利さんは本当の自由を得られるのだろうか?
これが、私の高校生活最後の思い出だった。
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