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白い尾を引いて、衝撃。キルコが咄嗟に繰り出した魔祓いガラスを華奢な拳が殴りつけた。ゴッ、と衝突音が響く。
菖蒲の金棒による一撃に近い威力を感じ、キルコは顔を歪める。パワーは鬼に近いものを持っており、そしてスピードは。
「そういえば自己紹介をしてなかったっす!」
頭上を白い軌道が走り、背後からはつらつと声。
「はっや……!!」
首筋に寒気が走り、反射的に出した”鉄蜘蛛の糸”に殺意が絡まった。そして悪寒。菖蒲にはこの糸を力づくで破られている。つまり、
「クロネと申しまっす! よろしくっす!!」
鋼鉄の糸などお構いなしに、律儀に名乗りながら少女は拳を推し進めた。勢いは、死なず。
「――――平坂烏っ!!!」
もはや視認している暇は無かった。背中に黒い翼を装着し、ただ闇雲にその場を飛び離れた。宵闇の空に留まり、眼下を警戒する。
クロネと名乗った少女は身体に絡まった糸を振り払っている。そして、キルコの目は彼女の傍からじりじりと離れている壮介の姿を確認し、小さく安堵した。
と、同時に。キルコの顔は苦虫を噛み潰したような表情になった。クロネと壮介の他に、キルコは倒れ伏す死体二つを見たからだ。ある魔導とある家族が、脳裏をよぎったからだ。
「それかっこいいっすね! でも降りてもらうっすよ!!」
いつの間にか糸を払ったクロネは腕を振りかぶり、勢いをつけてキルコの方へと突き出した。何かを投げたかのように見えたが、違った。
投擲したのではない。伸ばしたのであった。
「そんなのありっ!?」
伸びてきたのは腕、の形をした白い何か。それはクロネの纏っていた白い魔導であった。それは勢いよくキルコへ迫り、掴みかかろうと手を広げている。
キルコは背中の翼に魔力を送り、半身になることでその手を躱した。キルコを捕らえ損なえた白い腕はまるでゴムのように、持ち主のクロネの元へ戻っていった。
パワー、スピード、特殊な動き。それらをもたらす白いオーラ、クロネの魔導。
「避けないでほしいっす!!」
再び、伸びてくる腕をさらに翻って回避。キルコは眼前を通る白い腕を、真っ黒な目で捉える。
この魔導は有名だ。何人もの死神を死に追いやったからだ。名を”背徳の墓守”。
キルコは驚きを隠して地上の少女を見た。
(シーマン……!!)
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