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キルコがそれに気づいた瞬間、槌は振り下ろされた。
弩ッ、と。人が発してはいけない音を立てて。菖蒲の身は吹き飛び、民家を突き破って止まった。
唖然、と。一瞬の間の中でキルコは目を見開き、しかしやはり止まることなく次。
「っ、くらえ!!」
振り下ろした鎌を、今度は上へ。下から斜めに斬り上げる形で、魂を刈りにかかるが。
何か固い感触が鎌の進行を止めた。
「クロネさん、速すぎじゃねえですかい」
黄泉津鎌を掴んで止めているのは、息を切らした男。素手を切れ味鋭い刃に引っ掛けている。
「っっっ!!」
二人目の魔導者。少し猫背気味の男は赤っ鼻で、小さな黒目はキルコを捉えていた。
「そ、壮介!!」
菖蒲は殴り飛ばされ、相手は二人。明らかに、危険。
キルコは壮介の方を見ることなく”平坂烏”を呼び出して。できるだけ速く、速く、振り返って飛んだ。状況についていけていない壮介を抱きかかえる形で捕まえ、菖蒲の飛ばされた方向へ。
何とか逃れたキルコは、追撃が無いことを察して地に降りた。警戒を解くことなく、振り返る。二人の魔導者が余裕を見せるかのように並んで立っているのが見えた。
「き、キルコ……」
少しずつ理解が追いついてきているのだろう、壮介が「大丈夫か?」と呟き。キルコはすぐに答えることができなかった。
(ちょっとやばいかもしれないね)
壮介の言葉に答えずにいると、ガラリと音。先ほど菖蒲が突っ込んだ民家から。
「驚いたのう。やるではないか」
彼女が立ち上がり、民家から出てきた。頭を軽く押さえている。それを見て、馬鹿力の少女。
「ああー、さすがに菖蒲童子さんには力負けしちゃうようっすね。やっぱりあの人はアロイさんに任せるっす!」
大きな声が離れていても耳に響く。どうやら役割分担も決まっているようで、少女はキルコの方を向いて頭を下げた。
「キルコさんっすね! リドさんが話したがってるっすから力づくで連れてくっす!」
妙に礼儀正しい少女は、妙に物騒な宣言を叫び。
「いや話したいから力づくって意味が――――」
わからない、と。言う暇を与えずに、再び異常な脚力で駆けだした。
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