83人が本棚に入れています
本棚に追加
キルコの脳裏によぎった予感は確信に変わっていた。実際に見たことは無い。学校の座学で教えられるだけだ。しかし、死神ならば誰でも分かるであろう。
白い魔導を纏い、異常な力を発揮している少女はシーマン一家の一人だ。
多くの魔導者や悪霊を抱えていた昔の偽国や、多岐にわたる親族で構成されていたコド一族に比べると、規模はかなり小さなものだが。
しかし、手の付けられない犯罪集団という点においては、偽国やコド一族に並んで筆頭に数えられた。それが、シーマン一家。
世間には公表されていないが、彼らの掃討作戦も決行されたはずだ。キルコはそれに参加することはなかったが、概ね上手くいったと聞いている。ただ一つ、否、一人の取りこぼしを除いて。
公表されなかった理由が、シーマン一家の一人を取り逃しである。掃討作戦の最中、一家の二人が自害をした。それが引き金となり、惨劇は起こったという。
魔導“背徳の墓守”が発動したのだ。
恐ろしい魔導である。必要なのは、新鮮な死。肉体を離れた魂を喰らい、身に纏う。身体能力は上がり、白い魔導はまるで手足そのものの如く猛威を振るう。
綿密に計画され、完璧に決行された一家掃討作戦においての殉職者は、7名。全てが取り逃した一人の手にかかって命を落としたという。
糧とすることのできる魂の数には上限があるという見解が主流であるが、だとしても魔導として十分に脅威なのは間違いない。
実際、二人分の魂だけで菖蒲童子に近い力を発揮しているのだ。
(ヤバすぎる――――)
頭の中の教科書をめくり終わり、キルコは口の中で小さく舌を鳴らした。魔導者クロネ・シーマンが地を蹴ったからだ。
滞空しているキルコには容易に近づくことは、普通出来ないはずだが。しかしクロネは、昨日の菖蒲を思わせる身体能力で二人の間を一気に詰めた。
「ずるいっすよ! 私は飛べないのに、そっちだけ!」
同時に右手の白い魔導が膨れ上がり、鉤爪と化してキルコに襲い掛かった。一挙動一挙動が速い。
「失礼、な!!」
平坂烏を駆使し、何とか鉤爪を躱したキルコは勢いを殺さずに反撃。翼と鎌を並列使用する脳の不快感に耐えながら、右腕を振り上げた。
「そっちも跳んでんじゃん!!」
最初のコメントを投稿しよう!