ベジタリアン

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ベジタリアン

 友達にベジタリアンがいる。  一緒に外食しても決して肉は食べず、口にするのは野菜ばかり。とはいえ、周囲にも菜食主義を強要したりはしないので、そいつはそういう嗜好の奴なんだと、周りはみんな納得していた。  それでも、二十歳前後の食べ盛りに野菜ばかりで平気なのかという気持ちはあって、ある日そいつに聞いてみた。 「んー。…実を言うと、俺、ホントは肉好きなんだよね。でも迂闊に食べると現状維持ができなくなるからさ。  野菜食ってりゃ今の状態でいられるから、まあ、それで」  返事の意味が判らず、さらに問いを向けようとした時、ふと、友達の影のおかしさに気づいた。  目の前にいるのはどこにでもいるごく普通の成人男性なのに、テーブルに映る影はその輪郭とはまるで違うものだ。  なんというか、ずんぐりむっくりなのに棘だらけ。しかも喋るたびに、影の口と思しき部分が開くが、そこにはびっしりと獣のような歯の影が並んでいる。  自分で言ったことに気づいているのかいないのか、本人はしれっととしているから、俺はそれ以上の追及をやめた。  とりあえず今現在、肉を食いたい気持ちはあっても、あえてそれは出さないようにしているようだし、友人関係は良好だ。だから特には何も言わず、俺も、相手の言うように現状を維持することに努めよう。  そういえば、そのシチュエーションで二人きりになったことはないけど、満月の夜とかは、一緒にいない方がいいかな? …この影のシルエットを見る限り、月のない晩でも、その気になれば、存在するだろう『元の姿』に戻りそうだから、その気配りは必要ないかもな。 ベジタリアン…完
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