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彼が身じろぎしたと感じるとともに、息が間近にかかる。顔が火照ってきた。彼が初めて近づいてくれたのだ。嬉しくないはずがない。私は身を硬くしながらも、期待を胸に秘め、息を整えた。
「おれ、探してる人がいる。ずっと。子供の頃、別れたっきりでさ。ずっと、探したかった。だから、旅に出たんだ」
あ、息を飲んだ。焦がれる熱は引き潮のように消え去り、代わりに期待と不安が胸に居座る。先ほど以上に鼓動がやかましく鳴り響く。
手と手が触れた。
男にしては滑らかな手は私の手を握りしめていく。懐かしい。目から涙が溢れかけるすんでで抑えた。
「その人はここにいた。今のおれは会うので精一杯。あいや、もう今日で金を使い果たした。もっと力をつけなきゃ、強くならなきゃ、助けれない。待ってて・・・・・・ねえさん」
私は無我夢中でうなづく。やっと会えた。それだけでよかった。いつの間にか目から露が頬を伝っていた。胸は喜びが熱く燃え盛る。彼、愛し弟を腕に抱きしめて、何度も何度も撫で回した。
冷たい風を靡かせた夜は2人を見守って更けていく。
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この女は馬鹿だ。目が見えぬから気づかないのか?それとも幻でもあいつに会いたかったのか?
恋心を憎しみに変えてしまってとんでもないことをした過去。
謝りたい一心に来たけども、ぶ厚く塗り重ねた嘘はもう?がせそうにもない。
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