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だから、結婚式なんてあげてない。
彼女にウェディングドレスを着せてあげることもできていない。
そんな心苦しさはあるけど、彼女は文句は言わない。いつも、左手の薬指に光る指輪を愛おしそうに見つめている。
そんな姿を見るだけで、俺の心は幸せに満ちていった。
「ああ、俺って幸せ者だな」
彼女が俺に微笑みかける。
俺は彼女と共に、何の不自由もない満ち足りた生活を送っていた。
しかし、歳月は人を変えてしまう。
彼女は変わってしまった。
帰宅して出迎えてくれる声は変わらないのに、彼女の姿はあの頃とは大きく変わってしまった。
あんなに艶のあった黒髪がボサボサになり、纏めることもできない。
ふっくらと綺麗だった顔も、カサカサになり心なしか黒ずんでいる。
そして何より、彼女から笑顔が消えた。
彼女は俺を見ても笑わない。虚ろに何処かを見つめるだけだった。
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