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そして、その夜。
俺は出逢ってしまった、彼女に――
「いらっしゃいませ」
透き通った上品な声。
派手なドレスに身を包んだ彼女は、その華やかさに反しとても清楚でしなやかな物腰の女性だった。
彼女の仕草、声、長く艶のある髪。全てが俺を惹き付ける。
彼女の傍にいると、体を壊してしまった妻のことが頭から消えていく。
俺は彼女の虜になってしまった。
それから俺は、彼女に逢うために店に通いつめた。
そして、俺と彼女の関係が“客と嬢”ではなく“男と女”の関係に変わるのに、そう時間はかからなかった。
かつて愛した妻に罪悪感がないと言えば、嘘になるかもしれない。
しかし、若く健康な彼女の身体に触れていると、年月が過ぎ壊れてしまった体の妻の存在などかるく凌駕してしまう。
そして、俺は妻の声を聞くことを止めてしまった。
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