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「ようこそ、我が家へ」
少し緊張ぎみの彼女の手をとり、玄関ドアを開ける。そして、中に入ると音もなく内から鍵を掛ける。
「なんだか、すごく良い香りがするわね」
玄関にまで薫る甘い香りに、彼女は関心を示す。
「良い匂いだろ。好きなんだ、この匂い。さっ、早く上がって」
彼女と一緒に靴を脱ぎ、家に上がっていく。
『――おかえりなさい』
突然の声に彼女が細い身体をビクリとさせる。
「ああ、これはこの間、君に吹き込んでもらった声だよ。玄関を上がったらセンサーが反応して聞けるようにしたんだよ」
「……そ、そうなの……」
彼女に不信感が現れる。平静を装ってはいるが、明らかに家に来るまでとは違った緊張感に包まれている。不安そうに俺を見ている。
……だけど、もう遅いよ。
彼女を落ち着かせ、リビングのソファに座らせる。俺はキッチンに向かい、コーヒーを淹れる。甘い香りと芳ばしい香りが、一つの部屋で混ざり満ちていく。
「どうぞ」
彼女は警戒の色を見せながらも、俺の出したコーヒーを飲んでいく。
そして、パタリとソファの上に倒れ込んだ。
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