7692人が本棚に入れています
本棚に追加
バイオリンの音色にのって澄んだソプラノボイスが聞こえてくる。
理由もなく涙が溢れそうになる、その歌声を聴きながらもう1度楽譜の裏に書かれた文字を指でなぞる。
"賞が取れたら悠季さんに一番に報告!!"
女子高生っぽくないサラサラと流れるような字が、気取らない彼女らしさを表しているように思える。
踏切の前で行われた小さなコンサートはゆっくりと進んでいく。
弾き終えた悠季さんはバイオリンをケースにしまい、そっと手を伸ばす。
悠季さんに彼女の姿は見えてない、はずなのに。
伸ばした手が彼女の頬に触れるように重なった。
「ごめんね、ごめん……助けてあげられなくて……」
微笑んだ彼女は1度だけ首を横にふり、
『ーーーーーーーーーーーー』
その言葉は通り過ぎた電車の轟音にかき消された。
遮断機が上がったあとの踏切に残っていたのは嗚咽を漏らす悠季さんの声と俺たちをゆるやかに照らすオレンジの夕日だけだった。
最初のコメントを投稿しよう!