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「やっぱり敵いませんわ」
ポツリ、と消え入りそうな声で呟いたあずき。
気を利かせて悠一達をふたりきりにしてきたけど早急にすることもない僕らは木陰に座り込んでいた。
「それは、どっちの話?」
少し考えるように髪を耳にかけてゆっくりと口を開くあずき。
「どちらにも、ですわ。悠一様があんなに優しそうな顔、恭弥様以外に向けるとも思えませんし、恭弥様も私といる時はずっと笑顔だったんですの」
少しだけ悔しそうに笑う。
「あんなにほっとした顔、私と会ったときには見れませんでしたわ」
確かに。
彼があんなふうに泣きそうな、安心したような顔を向けるのは唯一1人だけだ。
「なんだか妬けてしまうね」
「それはどちらにですか?」
優しく僕に問いかけるあずき。
「うーん、どっちってわけじゃないけどね。なんだか幸せそうで羨ましいじゃない?」
「ふふ、そうですわね」
「僕にもいい人いないかなー」
「あら、仁様の性格の悪さじゃしばらく無理ですわ」
相変わらず僕に対しては手加減なしなんだから、あずきは。
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