あの日の言葉

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ザワッと鳥肌が立つような寒気。 「圭ちゃん……?」 何かの気配を感じたのか葉山さんもあたりを見回す。 ズズっと部屋の隅に姿を現した霊の姿に身構える、 けど…… 「あなたが、圭さん……」 悪霊化が止まってる……いや、むしろ、 「治まってる?」 昨日の禍々しかった雰囲気はほとんどなく、満足気に笑う青年が佇んでいた。 「怒りの原因はなくなった。負の感情がなくなれば悪霊化も自然と治まる」 やりきったようにドサリとソファに腰を下ろす悠一さん。 「圭ちゃん、そこにいるの……?」 ふらふらと手を彷徨わせる葉山さんに微笑んで手を伸ばす圭さん。 だけど2人の手は決して交わることなくすれ違う。 『……やっぱり、紅葉には見えませんよね』 まるで木々の隙間をかける風のように、心地いい声。 『ありがとうございました。僕の力だけじゃ、きっと紅葉を守りきれなかった』 真っ直ぐに俺を見つめてゆるく笑った圭さんに俺は首を横に振る。
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