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「っ、……!」
血液が押し流されるような感覚。
理由なんてない。けど目の前にいる葉山さんを自分の目に映せることが嬉しくて、愛しくて、
「ごめんね、紅葉」
ぼろぼろと熱いものが次から次へと頬をつたう。
「圭ちゃん……圭ちゃん、!」
痛いほどに背中を締め付けるその腕でさえ紅葉と触れ合えているのだと思えば苦ではなかった。
「お願い圭ちゃん……もう、どこにも行かないで……!」
「それは、出来ないよ」
俺の言葉にハッとして顔を上げる紅葉。
「これは僕の体じゃない。これ以上彼に迷惑をかけるわけにはいかない」
「だけど、私は圭ちゃんとっ、……」
「聞いて、紅葉」
さらりと指からこぼれ落ちる絹糸の様な黒髪が懐かしい。
「僕はもうこの世にいちゃいけない人間なんだよ」
いやいやと首を横にふる紅葉をなだめるように肩に手を添える。
「本当はもっとはやくに逝くべきだった」
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