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「わたしも……圭ちゃんが、好きよ」
俺の頬に添えられた小さな手を包み込むように自分の手を重ねる。
「最後にひとつだけ、わがまま言っていいかな」
紅葉を置いていった自分が、こんなことを言う資格はないのかもしれないけど……
「紅葉の心の、端っこの一番奥の引き出しの中でいい。"紅葉と生きた僕"をしまっておいてほしい。ずっと僕を想っていて欲しいなんて欲張りは言わないから、そういえば、こんな人もいたなって……思ってくれたら、僕は、それで幸せだから……」
「っ、圭ちゃんのばかっ!!忘れる、わけ……ないでしょ……」
そうだ、僕は……この笑顔が見たかった。
「…………よかった」
「っ、!」
ズルり、と首筋から何かに吸い取られるような感覚。
"ありがとう、探偵さん"
「圭、さん」
振り返ったその時には、室内に漂っていた気配は綺麗に消え去っていた。
「逝きました」
誰にともなく告げたあと、自分の腕の中で震える小さな体に気づく。
「や、なせさん……ごめ、なさ……も、少し……」
「……僕の胸でよければ、いくらでも」
声を上げて泣く細い体を壊さないよう、そっと抱きしめた。
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