幻影の誘い-前編-

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「今日、そんなに寒くねぇし……」 「うるせぇ、くそがき」 「どーせ俺はガキですよーだ!」 べっ、と舌を出してフンッと顔を背けたものの、悠一さんの白衣を手放そうとしないあたり、自分でも現金なヤツだと思う。 そんな俺を見て小さく笑った悠一さんは再び作業を始めた。 ホットミルクをひとくち含むとほうっと息を吐く。 あれ、なんか……眠くなってきたかも…… 眠ければ寝ればいいのだが、真剣な眼差しの横顔をもう少し見ていたくてパチパチと瞬きを繰り返す。 さっきまではぜんぜん眠くなかったのに。 カタカタという規則的なタイプ音と、身にまとった白衣から漂う香りに抱きしめられているような感覚に、高ぶっていた気持ちが落ち着いてくるのが分かる。 声を出さないように欠伸をすれば視界が滲んで尚更瞼が重くなる。 せめて仮眠室に戻ろう、と意識の中では思うものの体がついてこない。 あ、これダメなやつだ。 俺は抗うのを諦めてそのままゆったりと意識を手放した。
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