電子化脳シンドロームの欠片

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 作業服姿の礼香は、格納庫内のストックボックスの上に膝を抱えて座り、ぼんやりと深紅の人型機動兵器を見上げていた。  礼香は子供のころからこの真っ赤なロボットのパイロットになることを夢みていた。パイロットは軍の中でもエリートで、子供たちのヒーローだった。だから、軍へ入る時もパイロットを希望し、今もパイロット予備生として訓練をつみながら、メンテナンス担当として働く日々を送っている。けれど、礼香にパイロットの声は一向にかからない。それどころか、自分よりも後から入って来た後輩達が次々にパイロットになっていく始末。たぶん自分はパイロットにはなれない。心のどこかではわかっていて、でも、諦めきれない自分がいた。 「ストックボックスは座るためのものじゃない。しかも、上部の蓋の耐荷重は五十キロまでだ。今現在の礼香の体重はその耐荷重を二キロオーバーしている。破損の原因になるからすぐに降りろ」  ぼんやりとしていた礼香に突然そう声をかけてきたのは、パイロットスーツを着込んだ透哉だった。 「ちょっと、透哉!なんで私の体重を知っているのよ!」  礼香はストックボックスから飛び降りると赤面しながら透哉に詰め寄るが、透哉は表情一つ変えない。 「今の論点はそこじゃない」 「わかってるわよ!でも、そっちも問題でしょ!どうやって調べたのよ!」  礼香はさらに詰め寄るが、透哉は答えることなく、すぐ横にあった深紅の機体を見上げた。そんな透哉に、怒っていた礼香もついつられるようにして見上げた。  開け放たれた格納庫の入り口から夕日が差し込む。その夕日に、礼香が磨き上げた機体がきらきらと輝いていた。 「今日の訓練はどうだった?どこか具合の悪いところはあった?」  機体を見上げながら礼香は透哉に尋ねる。  礼香がメンテナンスを担当しているこの機体のパイロットは、幼馴染の透哉だった。
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