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──血ぬられた復讐のエピローグ──
──美しい森。
幼き日々、家族と過ごしたあの美しい森。
暗転してそれが、惨憺たる殺戮の場面に変わる。無惨にも切り裂かれ、燃やされる兄弟姉妹たち。身動きを封じられ、斬殺される父と母。
恐怖と、激しい憎悪。
どうして、とここでいつも泣き叫ぶ。なぜ母は私をかばったのか。なぜ私だけ特別扱いしたのか。
私だけが彼らとは姿形が異なっていたからなのか。
「助けに来た」
おそらく勇者はあのときそう言ったのだ。勝手に勘違いし、まだ人間の言葉は喋りも理解もできない私に向かって。
心優しく寛容で穏やかな性格のモンスターたちもこの世の中にはいるということが、やつらには想像すらつかなかったのだろう。正義の名を騙る差別主義者の悪魔どもには。
それで拳闘士と黒魔術師には、娼婦の真似事をし油断を誘った。猛者と称されるさすがの彼らも、愛撫の最中には武器も防具も外す。
その意味では、同じ女の白魔術師のときがもっとも難だった。色仕掛けは効かない。だからひそかに毒を盛ることにした。そして回復呪文を唱えようとしたところで、正義と信じて自分のしたことがいかに残虐な行為だったか教え、罪の重みを自覚させ、精霊の加護を受けられなくしてやった。
いずれにしても、異人種だろうが女であろうが、人間である私だからこそできたのだ。
……勇者の断末魔が聴こえる。
遠くなる意識の中、私は人生の旅の終わりに、楽園のようだったあの美しい森で、暖かい巣穴へ家族に迎え入れられる幸福な夢を見た。
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