第1話 電話

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ブー ... ブー ... ブー ... ベットから落ちたスマホが、木の床でその身体を震わせながら、必死に着信を知らせている。 カーテンの隙間からは強い日差しが漏れている。今は昼前だろうか。 学校は夏休みに入ったばかりで、昨日は発売したばかりのゲームをやっていて、夜中の3時まで夜更かししていた。 だから今日は昼過ぎまで寝ていたかったのにと思いながら、瞼は閉じたまま、スマホが鳴っている方に手を伸ばす。 どこだ。このあたりで鳴っているのは確かなんだけど。 ブー ... ブー ... ブー ... 発信者は諦めが悪いようで、その間もずっと発信を続けているようだ。 手が届く範囲は一通りまさぐったので重い瞼を少しだけ持ち上げてスマホの位置を確認する。 どうやら、ベッドから落ちたスマホは一度落下した勢いで跳ね返り、手を伸ばしても届かないところまで飛んでいたようだ。 くそ...。重い瞼だけでなく、身体まで持ち上げなくてはならないとは、発信者はなんて罪深い人なんだ。 「よっ」という声を小さくあげながら身体を横に転がす勢いで手をつき、そのままベットから立ち上がりスマホを拾い上げた。 スマホのディスプレイに表示された発信者名は、実家に住まう母だった。 なんだ、母さんか。 母親というものはいつも人が気持ちよく寝ている時に起こしにやってくる。そう思いながらスマホを耳に当てる。 「もしもし」 『もしもし!?どうしてすぐ電話にでないの!お父さんが入院したのよ!すぐこっちに帰ってきなさい!』 寝起きから母さんの頭に響くような高く大きな声と、想定外の「入院」というワードが出たことで一瞬理解することが出来なかった。 「え...。にゅ、入院って父さんが?どこか悪いところがあったの?」 父さんは酒好きだったけど、50年間病気なしで心体ともに健康。病気とは無縁の人間だと思っていた。 『それが、胃ガンらしいのよ!もうお母さんショックでショックで!』 ガン。嫌な言葉だ。その単語を聞いた時には少しだけ寒気がした。 父さんは寡黙であまりしゃべらない人だったから、あまり学校生活の話や、もちろん恋の話なんかはしたことがなかった。けど嫌いではないし好きというのは小っ恥ずかしいけど、大切な家族という認識だった。 だからその父さんが少しでも生命の危機に晒されるという話を聞けば誰だって驚くだろう。
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