蓮の葉のしずく

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入社して直ぐ、配属された本社営業部の部長である関に見初められ、自ら志願して彼の不倫相手になった私は、彼のためにと血の滲むような努力を重ねていくうち、僅か1年足らずで営業成績トップの座にまで登り詰めた。 当時、大学卒業仕立ての小娘が成績トップという快挙を成し遂げたとあって、社内や取引先の間で一躍時の人となった私は、話題性もあってか終業後の誘いを受けることは数多あった。 だが、そのうちの大半は交際や肉体関係を期するもので、関との関係を公に出来ない私にとって、それらの要求を振り切るのは至難の業だった。 40名から成る社員を束ねるボスの愛人という裏の肩書きを持つ私は、これを密かに誇りに思いながらも、それを公には出来ないというジレンマを抱え、その苦しみを解消すべく意図的に鉄の仮面を身につけるようになった。 そしてそれが定着するようになったとき『笑わない女』『仕事の鬼』『鉄仮面』などなど、私は宜しくない異名を持つまでになり、それに伴いハタ迷惑な誘いは激減した。 ただ、私の後に入社してきた後輩たちまでもが、無闇に私を恐れ毛嫌いすることは少し悲しい。 けれど、今は彼ら後輩たちを立派に育てることが自分の使命だと信じ、日々ビシバシと、けれど密かに楽しんで、彼らの指導に当たっていた。 そんな中、関の右腕であり、社内で唯一私と関との関係を知る部長補佐の鶴見に、社内での関との密会場所だった第ニ会議室に呼び出され、信じられない事実を打ち明けられる。 「関部長は、君から、新人の岩倉菜々緒へと心移りしたそうだ。だから君には今後一切、仕事以外では関わらないでもらいたいとのことだ」 「う、ウソです、そんなの」 私は呆然とした。 信じられない思いで鶴見を見つめた。
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