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初めにつけることのできなかった左手の薬指。
ようやく約束をしたものを彼女に贈れると、少し浮かれている自覚がある。
しかし彼女は二人きりになった車の中、嬉しそうな様子とは少し違っていた。
「疲れてないか?」
「はい、大丈夫です……」
思わず聞いてしまうくらいで、俺は「そうか……」と、返しただけだ。
それでも浮かれている俺は、彼女か緊張が解けたことからの様子だと勝手に理解した。
「買い物いけそうか?」
彼女の頬に触れてその顔を覗き込む。
近づけた顔に驚くものの、緩む口元に安心した。
やはりその顔は嫌そうではない。
彼女の表情一つに揺れ動く気持ちは、きっと彼女にバレてない。
俺は彼女の左手を掴んだ。
「ここに……」
その手を持ち上げて、薬指に口づける。
「とも……」
「嵌める指輪、買いに行くぞ」
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