2895人が本棚に入れています
本棚に追加
「黒は何色にも合わせてくれる親切さんだ。でも紺は違う。スーツに置き換えてみろよ。
ちょっとした色目や明暗で、合う色がまったく別物になるだろ?
こんな紺色のなかに黄色い月だ、そして下弦の月。
頭のいい女みたいじゃないか。計算高いっていうのと違う次元で自分を魅せる女性。
そんな感じがしないか?知性を伴ったエロさはシャープなイメージだよな。
俺、あの月と友達になりたい」
「ふん」
こいつは俺の言いたいことがわかっている。でもそれを伝える術が怖ろしく下手クソで、致命的だ。
だからこそ募る気持ちだってある。
この不器用さ加減が俺の心を常にくすぐり続けるから、そのたびにドキドキしてしまう。だからついつい甘やかしてしまうわけだ。(悔しいけど)
「飯塚が何色で光ろうが、俺はそれが映える空になるさ」
「たけ……もと」
ここが肝心。これ以上ダメを押すと泣くわけだ。この男前が。
それを見極めながら、俺はお前が好きなんだぞってことを言い募っているわけ。
群がる女、店の客……道を歩いている女達が発する「あらいい男!お近づきになりたいわ!」光線を跳ね返すバリアになればいい、そう願って。
はぁ……課長。飯塚に営業しないですむような生活に、早いとこしてくれませんか!
「俺はベッドで寝たい。だからもう空はいいだろう?一緒に帰ろう」
帰るって、たかだか20歩程度なのにね。かわいいから許す。
「どこにもいかないでくれよ。起きた時に武本がいないと、怖くなる」
ばぁ~~か。俺もだよ。だから何も言わずに差し出された手を握る。
甘やかして、甘やかされての毎日は予想よりずっと楽しい、そして安心。
満ちたり欠けたりを繰り返す月のように、飯塚が変化しようが構わない。俺がそれを映す空でありつづければ一緒にいられる。
「月のない空は見てもつまらない。空がなければ月は存在できない。そうだろ?武本」
飯塚はそう言って、触れるだけのキスをくれた。敵わないな……ほんと。
やっぱりお前は俺の理想の「男前」
最初のコメントを投稿しよう!