<その後の二人> 夜更けの男前

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「黒は何色にも合わせてくれる親切さんだ。でも紺は違う。スーツに置き換えてみろよ。 ちょっとした色目や明暗で、合う色がまったく別物になるだろ? こんな紺色のなかに黄色い月だ、そして下弦の月。 頭のいい女みたいじゃないか。計算高いっていうのと違う次元で自分を魅せる女性。 そんな感じがしないか?知性を伴ったエロさはシャープなイメージだよな。 俺、あの月と友達になりたい」 「ふん」 こいつは俺の言いたいことがわかっている。でもそれを伝える術が怖ろしく下手クソで、致命的だ。 だからこそ募る気持ちだってある。 この不器用さ加減が俺の心を常にくすぐり続けるから、そのたびにドキドキしてしまう。だからついつい甘やかしてしまうわけだ。(悔しいけど) 「飯塚が何色で光ろうが、俺はそれが映える空になるさ」 「たけ……もと」 ここが肝心。これ以上ダメを押すと泣くわけだ。この男前が。 それを見極めながら、俺はお前が好きなんだぞってことを言い募っているわけ。 群がる女、店の客……道を歩いている女達が発する「あらいい男!お近づきになりたいわ!」光線を跳ね返すバリアになればいい、そう願って。 はぁ……課長。飯塚に営業しないですむような生活に、早いとこしてくれませんか! 「俺はベッドで寝たい。だからもう空はいいだろう?一緒に帰ろう」 帰るって、たかだか20歩程度なのにね。かわいいから許す。 「どこにもいかないでくれよ。起きた時に武本がいないと、怖くなる」 ばぁ~~か。俺もだよ。だから何も言わずに差し出された手を握る。 甘やかして、甘やかされての毎日は予想よりずっと楽しい、そして安心。 満ちたり欠けたりを繰り返す月のように、飯塚が変化しようが構わない。俺がそれを映す空でありつづければ一緒にいられる。 「月のない空は見てもつまらない。空がなければ月は存在できない。そうだろ?武本」 飯塚はそう言って、触れるだけのキスをくれた。敵わないな……ほんと。 やっぱりお前は俺の理想の「男前」 image=505229277.jpg
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