<常連 すずさんの巻>

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「正木、アポは14:00で間違いないよね。」 「大丈夫です。先方さんに今朝確認済です。」 時間はただいま12:05 なにも給料日にコンビニに行かなくてもいいじゃない、そうよ、ご褒美をもらってもいいじゃない。 思いつくところは「SABURO」 オフィスのデスクの上でオーダーするメニューを決めてしまう。 やっぱり、ラグーよね・・・。 「外にでるわ。13:00過ぎには戻るから。」 デザートにはジェラードを食べちゃおうかしら。 急ぎ足でオフィスを後にした。 職場のビルから歩いて3丁、市内中心部の大通りとススキノの間。若干西界隈に目指す店がある。ダークブラウンの木板の壁に大きなウィンドウ。店内の白い壁は外からみても眩しく清潔。 オリーブグリーンのドアを開けると、思いのほか高い天井から落ちてくるダウンライトの温かい光。 天井の梁、カウンター、店内を引き締める色は外壁と同じダークブラウン。 ドアと同じオリーブグリーンのクロスがかかったテーブルが8席。 6人座れるカウンターはキッチンの目の前-そこが私の指定席。 「いらっしゃいませ。」 去年の暮れあたりから、ここにいるかわいい男の子に出迎えられる。 「こんにちは。」 知らずに自分も笑顔になってしまう、そのくらいいい顔を浮かべる彼。 残念なのは、この店のスタッフの少なさ。特にランチは時間があるときしか来られない。 厨房に一人増えて料理がすぐ出てくるようになったけれど、ホールにはあと二人ぐらいいないとね。 「いい人いたら紹介してくださいよ。」 いつも実巳君にそう言われるけど、いい人なんてそうそう転がっていないのよ。 彼は合格!長くここで働いてほしい。 迷わずカウンターに陣取ると、実巳君の「すずさん、いらっしゃ~~い。」が聞こえてくる。この脱力加減に癒される・・・。 わたしは学生の頃からこの店に通うようになった。 その時は実巳君のお父さんとお母さんが切り盛りしていて、なんともホッコリする雰囲気と優しい味に魅せられて大ファンになった。 ホールを手伝ったりしていた実巳君が高校を卒業して厨房に入るようになり、その後店を引き継いだわけだけど、変わらず美味しい料理と落ち着くいい店であり続けている。
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