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「実巳君、エゾシカのラグーのパスタをお願いします。」
「すずさん、ほんと、好きだよね。俺は嬉しいけど。」
お父さんの代は豚のラグーだった。
「やっぱり北海道で肉といえば豚か鳥、焼肉ったらジンギスカン。だから豚肉。
本当はボロネーゼって牛肉なんだけどね。だからラグーって名前なの。」
そう笑って出してくれたパスタは今まで「ミートソース」として食べていたのは何だったんだ?と思うぐらいの衝撃の味。
実巳君の代になって、豚のラグーにエゾシカが加わった。これがまた絶品。
無性に食べたくなるのよね、今日みたいに。
♪♪♪
なによ、電話が鳴るってどういうことよ。
ディスプレイに映る文字「正木」
あのバカ、ほんと使えない!アポは確認しましたと言ったよね、じゃあ、今度はなによ。
スマホを握って席をたつと、キッチンから実巳君がパスタを握って頷いている。
『電話終わるまで茹でないよ』そんな顔をしてパスタ片手にブクブク沸騰している鍋を指差した。
トイレの前のちょっとしたスペースに移動して電話にでる。
「はい鈴木。」
『お疲れ様です!鈴木さん、すいません!』
「すいません?今度はなに!」
思いのほか声が大きくなってしまった。
だってしょうがないでしょ、大好物のラグーが逃げていこうとしているんだから。
『13:00にSONの佐々木さんが来ること俺忘れてました!』
「・・・。」
『変更した点のチェックです。今日の午後イチで下版しないと納期に間に合わないから確認してくれって昨日連絡きてたんです。それ忘れてました、すいません!』
「忘れるって・・・あのね。」
時計を確認する-12:27
「これから戻るから。最初にあげてもらったラフと前回のデザイン用意しておいて。
変更点に漏れがないか確認に必要だから。
それと納期と納品場所を先方さんにもう一回確認とって。
佐々木さんからT-プリンツに下版データーいってから納期違ってましたなんてシャレにならないからね!わかった?」
『わかりました!すいません!』
「これから戻るわ。」
忌々しいこのスマホめ!いや違うわ、バカ正木め!
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