其々の思い

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男性は後をついてくる。 全速力で逃げ、なんとか男性をまくことができた。 息を切らして家へと帰る。 両親は今日も変わらずいなかった。 孤独が口数を減らす。 理由のつかない不安や焦燥に駆られた。 全てにやる気が起きなかった。 それから何日が経っても紫乃は悲しい感情が抑制の効かないまま溢れ続けていった。 本来人の感情は失恋などの余程の理由が無い限り、時が経つと同じ感情のままではいられなくなり、逆の感情へと働く筈なのだが、紫乃の場合は情緒不安定な状態が何日経っても続いた。 自傷行為が激しくなっていった。 風呂場で自分の腕をカッターで切る。 死にたい訳ではなかったが、血が流れると何故か安心するのだ。 血をにじませたままでは着替えに血がつくので、リストバンドをつける。 (これも…霊団…呪詛のせいかもしれない。) 風呂場から上がると凛さんからメールが届いていた。 【件名】 穿君から伝言だよ。 【本文】 大丈夫か?何かあったのか? 私は涙を拭いてメールを素早く打ち送信した。 『何もないよ。大丈夫。ありがとう』 『なら、良いけどあんまり無理すんなよ?』 『うん!大丈夫大丈夫!元気一杯だよ』 『空を見上げると、紫乃を思い出すんだ。元気かなーって。 同じ空の下にいるから、繋がってるから寂しくないって思うようにしてる。 本当はすごく会いたい。紫乃。』 メールを見て、思わず携帯を握りしめる。 涙目が堰を切ったように溢れた。 「やめて、これ以上優しくしないで。穿。 今弱ってる時にその優しさは堪えるよ…。」 紫乃は布団にくるまり、誰にも聞かれないように、声を殺して泣き続けた。 多分もう遅い。 私は穿が好きだ…。 その時の紫乃には穿が戻りたいという気持ちを込めたメールである事に気付くことが出来なかったのを後に痛いほど後悔する事となる。 それはいけない事だったと、後々アキに諭される事となるのだった。
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