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「更に言うとね、こちらに来てごらん。」
アキは立ち上がり、こちらに差し出された手を握る。
手を引かれるまま連れてこられた場所は未だかつて見た事のない景色だった。
岸壁の上部から何メートルか下には大きなコバルトブルーの海が一面に広がる。
こんなに海底が透けて見える海は見た事がない。
海の中には鮫に似た巨大な海の生物が何体も泳ぎ、蠢いている。
こんなに大きな生物も綺麗な海と同様に見た事がないが、肉食であることは容易に想像できる獰猛さだ。
その生物からすれば紫乃達は一飲みで終わりだろう。
紫乃はただひたすら怖くてへたり込んでしまった。
アキは紫乃の背中に触れる。
「この幽界には遥か昔に滅びた種も存在しているんだ。
この生物はおそらく太古の昔の生物だろう。
原始人もいるよ。
色々な時代を生きた者が層をつくり、幽界にいつまでもいる者も存在する。
でもね、それはやはりあまり良い事ではないかな。
上等な魂ならばここにずっといてはいけないと思う筈だから
幽界には植物も生物も石も妖精も龍も様々な時代の者もいる。
それらはやはり個々の意思を持ち個性を放つ。」
そして再びアキの家に戻る。
そこにはイツキが帰ってきていた。
イツキは怪我をしていた。静かに胡座を掻いていた。
腕に傷を負っている。
「大丈夫??」
アキがイツキに近寄り、傷口に手を当てた。
「女性と何処かへ消えたと思ったらこんな傷を負って、一体どんな修羅場を起こしたんだい?」
アキは冗談交じりにイツキを冷やかす。
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