第1章

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「朝、校長先生も言っていましたが、最近動物たちに酷いいじめをする不審者が、この街に出没しているみたいです」 放課後のホームルームで、男の先生が言った。わたしは、机の上のランドセルに乗せていた顎を離して顔を上げる。 「お巡りさんが見張ってくれていますが、とても危ないので、今日から集団下校をします。みんな、正面玄関に集合して下さい」 「ねえ、知ってる?」 正面玄関に行くと、あいこちゃんが声をかけてきた。 「その、ふしんしゃ、って人、動物をいじめてるんじゃないんだって」 「どういうこと?」 わたしが聞くと、あいこちゃんは口をわたしの耳に寄せる。 「ころしちゃうんだよ」 生暖かい息が耳にかかり、ぞわりとした。 ころしちゃう?あいこちゃんの言葉を反芻する。動物を? 「それにね、どうやってかはわからないけど、他人のお家に勝手に入って、ペットとかもころしちゃうんだって」 人のお家に、どうやって入るの。そんな疑問よりも、恐ろしさに体が震えた。それって凄く、怖いことだよ。 先生を先頭に、1列になって歩いていると、わたしがいつも右に曲がって行く道を、先生は真っ直ぐ進んで行った。その先生に続いて、みんなも真っ直ぐ進んで行く。 わたしは慌てて、前を歩くあいこちゃんのランドセルを掴んだ。 「ねえあいこちゃん、わたしのお家、ここを曲がるんだけど」 雑木林と川に挟まれた薄暗い道を指差すと、あいこちゃんは不思議そうに首をかしげた。 「帰れば?」
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